世間は豚インフルエンザ(swine flu)の話題で持ちきりである.日本に感染者が出た時点で,私の大学は全学休講,立ち入り禁止になるとの通達が出たけれど,今日は通常通り.ちょうど良い(?)ので講義でもパソコンでswine flu関係のBBCニュースを流したりしてみた(ついでにYou swine!なんて表現も教えておいた).
帰宅時にブルーレットおくだけを買うため薬局に寄ると,普通のマスクがほとんど全部売り切れていて,ウィルス防御マスクだけが少し残っていた.普通のマスクだと飛沫感染は防げても,ウィルスは簡単に通り抜けると思うんだけど,ウィルス防御マスクは高いからみんな気休めで普通のマスクを買うんだろうか・・・.
この手の感染症で記憶に新しいのはSARSである.当時,私はイギリスで大学院生だったのだが,広まったのが長期休暇中で,私のいた大学は留学生が多かったので,休暇が終わって香港を中心とするアジア諸国から留学生が戻ってきたら危険なんじゃないだろうか,と心配したものだった.テレビでもBBCだったかChannel 4だったかが,SARS–Killer Bombなんていう怖いドキュメンタリーを放送していて,かなり恐怖心をあおられた.
もう少しさかのぼると,留学初年度の2001年に学内でノロウィルスが流行ったこともあった.夏にイタリアから中学生くらいの語学留学生がたくさん大学に来ていたのだが,その子たちの間でまず流行だし,全学に広まった.フラットメイトが感染して,ずいぶん酷い目にあっていたが,私は結局大丈夫だった.さて,今回はどうなることやら.
先日授業でFirst Wordを著したChristine KenneallyがNew Scientistに載せた論文(記事?)を読んだこともあって,彼女についてネットで調べてみるとAuthors@Googleの1つとして彼女のトークがYoutubeにあったので見てみた(ちなみにChomskyやPinker, Jackendoffのトークも同じAuthors@Googleシリーズで見ることができる).
彼女はメルボルン大学でBA,ケンブリッジ大学でPhDを取った言語学の専門家だが,大学の教員や研究所の研究員にはならずに,サイエンスライター,ジャーナリストになった才女である.自然科学,社会科学,人文科学どの諸分野も,程度の差はあれ細分化され専門家されているので,専門外の人々向けに自分の研究領域について語るというのは中々難しいのであるが,彼女の語り口は専門家の目から見た学術的正確さと門外漢の人にも理解できる明快さのバランスがうまく取れており,その能力の高さが伺い知れる.
「言語」というのは,身近な存在ということもあって,比較的一般の人々の興味を誘いやすい領域ではあり,彼女のような人がライターとして活躍し,Pinkerの本がベストセラーになるのもうなずける.他方日本では各出版社からは様々な言語に関する新書に類するものが出版されているにもかかわらず,「言語学」の中身はちっとも一般に浸透していないし,大学においてですら欧米で言うところの言語学科,認知科学科にあたるものもほとんど存在しない.だから結局fMRIなんかを使って脳科学的な側面から研究しても,「外国語習得には年齢は関係ない」というような俗物的・即物的な研究しか話題にならないのだろう.問題なのは研究をしている側ではなく,研究を取り上げる側,受け止める側の意識だろう.